静止画像圧縮技術の1つにJPEG方式があります.JPEG方式では,圧縮の対象と する画像を複数のブロックに分割し,各ブロックに対して順に,同一の圧縮処 理を行います.このとき,全画素値が同一のブロックが存在する場合がありま す.こ こで,全画素値が同一のブロックのうち,最初に圧縮の対象とするブロック をユニークブロック,それ以外を同一ブロックと呼びます.JPEG方式では,分割し たすべてのブロックに対して圧縮処理を行い,その圧縮データをファイルに格 納します.しかし,同一ブロックをJPEG圧縮したデータは,その同一ブロックに 対応するユニークブロックの圧縮データと等しくなるため,すべてのブロック の圧縮データをファイルに格納することは,同一ブロックの数が多くなるほど, 圧縮ファイルサイズの点で効率的ではありません.
ユニークブロックと同一ブロックのもつ特徴を生かした手法として, ブロック比較法(Block Comparator Technique,以下BCT)があります.BCTでは, 同一ブロックとユニークブロックの同一関係を表(以下,BCT表)に記録して, それを圧縮ファイルに組み込み,同一ブロック以外のブロックを圧縮します.各々 の同一ブロックの圧縮データを対応するユニークブロックの圧縮データに置き 換えることで圧縮サイズを削減できる可能性があります.一方,圧縮ファイルを伸 長する際には,BCT表を使用して,圧縮されなかった同一ブロックの全画素値 を入手します.しかし,既存のBCTはカラー画像圧縮には対応しておらず,また, BCT表の作成法に問題があり,十分な圧縮率が得られません.
本研究ではこれらの問題を解決するために,BCTの拡張および改善を行ってい ます. まず,カラー画像に対応できるように拡張し,圧縮可能な画像の種類を増やし ました.そしてBCT表を差分符号化することにより,BCT表のサイズを削減しました.また, JPEG圧縮処理過程の量子化後に同一ブロック数が増加することに着目し,量子 化後にBCT表を作成しました.その結果,同一ブロックの割合の高い画像に対して 圧縮ファイルサイズをJPEGのものよりも小さくできることがわかりました.また,特に 高品質の圧縮の際に,拡張および改善したBCTは,圧縮率の点で 効果を発揮することがわかりました.さらに,EBCTを導入したJPEG圧縮によって作 成されたファイルの伸長プログラムを作成し,同一ブロックの割合の高い画像 に対しては,伸長時間をJPEGよりも早くできることがわかりました.
左下の画像に対するJPEGとEBCTによる圧縮率の比較結果を右下に示します.図中の上のグラフが EBCTによる圧縮率,下のグラフがJPEGによる圧縮率を表しています.横軸の qualityというものは画質を表すもので,その値が高いほど良い画質になりま す.この図から,EBCTの方が圧縮率が高くなっていることがわかってもらえると 思います.